まるで夢で見たような、夢としてのリアルさを目指して作る創作文、第十一夜から第十五夜までを掲載予定です。
ただいま第十二夜まで載っています。
「眠っている時に見る夢のような話」がコンセプトです。
実際に見た夢の記録と比較しながら、夢の面白さを感じたい、そして自身の想像力の増強につながれば良いなと言う試みです。
一話ごとに完結するオムニバス方式です。
読んでみてお楽しみいただければ大変幸いです。
また誤字・脱字・誤用など見つけられましたら、教えてくださると助かります。
猫はほとほと困り果てていた。
サーバーメンテナンスから夜が明けない。
今すぐにサーバーに入りたいのだが、何度試みても接続出来ませんの文字がチカチカと光るのみであった。
猫はサーバーの様子を確かめようと移動を開始した。
猫はいつも広場にあるレンガの壁に画面を映し出していた。
その裏手にサーバーが置いてある小屋が建っている。
夜空の下、芝生を歩いて壁の裏に回り込み、サーバー小屋の扉を開けた。
するとそこにはタコがいた。
サーバーにタコが張り付いていた。
なるほど、これでは繋がるまい。
猫はタコを引き剥がすべく、タコの頭を力の限り引っ張った。
しかしタコは多少伸びるばかりでちっとも剥がれない。
猫はもう一度、今度はタコの頭の付け根に爪をかけ、サーバーに片足をかけて思いっきり引っ張った。
「痛いのです…」
するとタコが喋った。
「あなた話せたのですね」
猫は驚いた。
物言うタコなんて聞いたことがない。
しかし、それなら話は早い。
「あなたがサーバーに張り付いているおかげで、メンテナンスが終わりません。どうかそこから離れていただけませんか」
タコはか細い声でこう返した。
「ときめきが足りないのです…」
猫はやっぱり驚いた。
「ときめきですか」
どういう事か分からず困惑していると、タコはこう続けた。
「ええ…ときめくと滑りが増すのです…さすれば吸盤は外れるでしょう…」
タコの生態はよく知らないが、タコ自身が言うのだから間違いあるまい。
「そうなのですね。一体どんなことにときめくのですか」
「長い物が好きです…」
それを聞いた猫は、それならばと背伸びを始めた。
「どうですか」
「もっと長く…」
猫は両手を天に掲げ、さらに背伸びをした。
「もっと…もっと…」
猫は柱に爪をかけ、後ろ足を着くか着かないかまで伸ばし、最大限に背伸びをした。
「うーん…イマイチなのです…」
がっかりした猫は、そのまま爪で柱に傷を付けながら縮まっていった。
するとタコは、その柱の傷に感銘を受けたらしかった。
「ああ…ときめきます…」
タコはずるずるとサーバーから滑り落ちた。
「良かった。外れましたね」
「ええ…ご迷惑をおかけしました」
「いいえ。それにしてもどうしてサーバーに張り付いていたのです」
「暑かったので涼を求めて…」
「しかしサーバーは熱かったでしょう」
「ええ…失敗しました…」
「ふふふ」
猫とタコは顔を見合わせて笑った。
2人で外に出ると満点の星空から雪が降ってきた。
「ちょうど良いですね」
「ええ…とても涼しいです…」
軽くて粉のような雪はみるみる降り積もり、2人の前に1mほどの山を作った。
「シロップをかけて食べましょう」
「それは名案です…」
猫は脚立に乗って、雪山の頂点からオレンジ色のシロップをかけた。
2人で山にかじりつき、かき氷を堪能した。
「そういえばこの間、スイカをいただいたのです」
猫はスイカを持ってきた。
「大きいので1人では食べ切れません。ご一緒どうですか」
「ぜひいただきます…」
猫はスイカにしなだれかかった。
するとスイカはパッカーンと勢いよく割れ、くし切り状になった。
「ささ、お食べなさい」
またはらはらと雪が降ってきた。
スイカの上に降りかかると、それは雪ではなく塩であった。
「よい塩加減です…」
猫とタコはニコニコと並んでスイカを食べた。
次は白くて細い麺が降ってきた。
「ときめきます…」
タコは滑りを増した。
「これはそうめんですね」
猫とタコはそうめんを集め、湯がいて食べた。
めんつゆが入った硝子の器が月の光を反射してキラキラと光った。
2人は硝子や、めんつゆの水面に映る月を眺めながら、朗らかにそうめんを食べた。
そうこうしているうちに空が白み、爽やかな風が一陣吹いた。
淡い紫と青の朝顔が花開き、夏らしい朝を迎えた。
猫とタコは微笑みながら夜明けを見守り、木陰で柔らかい緑葉に抱かれつつ眠りについた。
それから猫とタコは仲良しになり、サーバーをメンテナンスしながら今も幸せに暮らしている。
そして、微睡から目を覚ました。
第十二夜
抜けるような青空の下、菜の花畑の真ん中で私は菜種油を抽出していました。
菜の花がたくさん積まれた、唐箕のような機械に手回しハンドルが付いています。
こちらをぐるぐると手で回すと、ガシャコン、ガシャコンと軽妙な音と共に、菜の花たちが少しずつ引き下がっていき、これまた少しずつ黄金色の油が抽出されるのでした。
出てきた脂は大きな透明の瓶に溜まって行きます。
ポツンポツン、ポツンポツンと一滴一滴が落ちる音が小気味よく耳に届きます。
ガシャコン、ガシャコン、ポツン、ポツン。
ガシャコン、ガシャコン、ポツン、ポツン。
その愉快な音を聞きながら、私は菜種油を使って何を作ろうか考えていました。
クッキーやケーキなど、甘いお菓子が好ましく思えました。
そうやって頭の中で楽しんでいると、菜の花畑にどじょうの団体が現れました。
どじょうたちは東京から観光に来たのだそうです。
この近くの温泉に入りに来たらしいのですが、定員オーバーのためやむなく蕎麦湯に浸かる事にしたとの事でした。
こちらには蕎麦湯を求めてやって来たようです。
しかしここには蕎麦湯は無く、菜種油ならありました。
菜種油に浸かるか聞くと、それは嫌だと言います。
どうしようか、みんなで悩み唸っていると、あるどじょうが提案をしました。
公園でホットケーキを焼いたらどうかと言うのです。
私はそれはいい考えだと思いました。
ちょうどお菓子を作ろうと考えていた矢先でした。
同意するとどじょうたちは浮足立ちました。
彼らは楽しいアトラクションを求めていたのです。
早速公園でホットケーキを焼き始めました。
唐箕のような機械はホットケーキも自動で焼けるのでした。
じゅわじゅわと菜種油が弾ける音と、ふんわり甘く香ばしい匂いが公園を満たしました。
ホットケーキをどんどん生産し、どんどんどじょうたちが食べていきます。
どんどんどんどん、生産します。
どんどんどんどん、どじょうたちが食べます。
とうとうどじょうたちはお腹がいっぱいになり、満足のため息をつきました。
しかしまだまだホットケーキは出来上がります。
このままではホットケーキで押しつぶされてしまうので、他の方たちにも召し上がっていただくことにしました。
どじょうたちは公園内外からたくさんのお客様に声をかけ、連れてきてくれました。
営業も接客もそつなくこなし、それは見事な手腕でした。
山のように積もったホットケーキがみるみるうちに捌けていきました。
私は感心しきりでした。
どじょうたちに感謝と労いの気持ちを込めて、残りのホットケーキに御の字を焼き入れました。
これにはどじょうたちも喜びました。
彼らは旅行の手土産も求めていたのです。
どじょう一行にホットケーキを配り終え、私たちは挨拶をして別れました。
御の字が刻印されたホットケーキをお土産に、どじょうたちはわいわいと東京へ帰っていきました。
そして、微睡から目を覚ましました。


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