まるで夢で見たような、夢としてのリアルさを目指して作る創作文、第六話から第十夜までを掲載しています。
実際に見た夢の記録と比較しながら、夢の面白さを感じたい、そして自身の想像力の増強につながれば良いなと言う試みです。
読んでみてお楽しみいただければ幸いです。
一話一話、異なるお話でオムニバス形式になっております。
また、誤字・脱字・誤用など見つけられましたら、教えていただけると助かります。
それでは、おやすみなさい。良い夢を。
第六夜
住宅街の狭間の小さな道路を全速力で走っている。
私は何者かに追われている。
日は浅く肌寒い。まだ早朝のようである。
何者に何故追われているかはわからなかった。
ブラックスーツに身を包み濃い目のサングラスをかけた、ボディガードのような屈強な男が頭に浮かぶ。
そう、私はそういう男に追われている。
後ろを振り返るとひとつ前の角から誰かが曲がってくる影が見えた。
あの男だ。追いつかれてしまう。
私は恐怖を感じてもっと早く走ろうとするが、足が重くてなかなか進まない。
地面が滑りやすく、さらにいつもより重力がかかったようになって体が思った通りに動かない。
まるでスローモーションのようだ。
それでも必死でもがき、なんとか次の角を曲がることができた。
角を曲がりながら後ろを確認すると、ものすごい剣幕で迫りくる幽霊のようなものが見えた。
白装束を着て三角の布を頭に被った黒髪の女性で足元が吹き出し状になって浮いている、実に典型的な日本式の幽霊であった。
私を追っているのはボディガードのような男ではなく、古典的幽霊だったのか!
私は恐怖に慄いた。何故追われているのかは考えなかった。とにかく追いかけられるということが恐ろしい。早く逃げなければとさらに足に力を入れるが、やはり一向にスピードは上がらない。
そのうちにまた次の角が見えてきた。
また曲がりながら後ろを確認すると、今度はものすごい形相で迫りくる着ぐるみの熊が見えた。張り付いた笑顔が怖い。
全体が薄い黄色で耳や口元の一部などが白で構成された、ふわふわの大きな着ぐるみの熊であった。
私を追っているのは幽霊ではなく、着ぐるみの熊だったのか!
恐ろしい事である。熊の着ぐるみは可愛らしいが、醸し出す雰囲気が尋常ではない。捕まってしまったら酷い目に遭いそうだ。しかし足を素早く動かそうとしても言うことを聞かない。
むしろ減速し続けているような上手く動かない体を引きずりながら、ようやく次の角を曲がる。
再び後ろを振り返ると、今度はものすごい渋面で迫りくるヒーローの姿が見えた。
スカイブルーで光沢のあるタイツに身を包み、要所に赤や黄色のワンポイントがついていて真っ赤なマントを翻している。
そう、某有名スーパーヒーローのようないでたちである。
本来自在に飛んでいそうなそのヒーローが、ゴール間際のスプリンターのように地に足をつけて全速力で走ってくる。
これはおっかないにも程がある。どうしてヒーローに追いかけられねばならないのか。正義のヒーローに捕まってしまったら私は悪人になってしまう。
しかし私の体は依然重く、プールの底にでも沈んでいるかのように足が動かない。
次の角を曲がらぬうちに私はとうとうスーパーヒーローに捕まってしまった。
右手首を掴まれた後、左手首も捕らえられ、私とスーパーヒーローは押し合いへし合いしながらやがて2人ともしゃがみこんでしまった。
正面から向き合い、両手首は未だスーパーヒーローに掴まれている。
もう逃げられそうもない。しかし私は一体なぜ追いかけられているのだろうかと今更ながら疑問に思った。
私が何かしましたでしょうか、と恐る恐る問いかけると、何もしていないのですか、と思いの外優しく驚いた声色で返された。
私が何の心当たりもなく追いかけられている旨を伝えると、ヒーローも皆が追いかけていたので騒ぎを聞きつけてやってきたのです、と言った。
徐々に空が暗くなって行く。夜が訪れるようだ。
私たちは長い間見つめあった後、ほとんど同時に、それは失礼しましたと言った。
その瞬間、背後でけたたましい音を立てながら盛大に花火が打ち上がり、向き合ってしゃがんだままの私たちの影をパチパチと照らした。
そして、微睡から目を覚ました。
第七夜
デニスは木の上にいた。
最近引っ越してきた新居である。
ここは風通しも良く、陽当たりも良く、何より丈夫で気に入っていた。
しかしある日リスがやって来てこう言った。
「あなた一体、私の家で何をやっているのですか!」
デニスは激怒された。
「今すぐ出て行ってください!さあすぐに!」
結構な剣幕である。
デニスは困ったが、せっかく見つけた新居を追いやられるのは損だと思い、反論を試みた。
「ここは僕の家だ」
「いいえ、私の家です。私が旅行に出向いている隙に入ったのですか。不法侵入です」
しかしすぐにまた反論されてしまった。
どうやらリスの方が一枚上手のようである。
するとデニスは自分の特技を思い出した。
これならリスを説得出来るかもしれない。
「そうだ、僕がここにいる正統性があるぞ」
「それは何でしょう」
「見てくれ!僕の腕には関節が3つあるんだ」
デニスは右腕を振り上げ、左手で指し示しながら説明した。
「手首、肘、そして…肩さ!どうだ、すごいだろう」
「それが普通です」
しかしリスには通用しなかったようだ。
「それを言うなら私にはしましまの尻尾があるのですよ!あなたには畳がお似合いです」
「畳を馬鹿にするな。あの柔らかな触感と暖かさ、そして爽やかな香り。最高の床じゃないか」
「そんなら畳へお帰りなさい」
「あまりにひどい!」
さらにリスは呆れたようにこう言った。
「あなたの頭は空き缶の中で出鱈目に箸をぶつけたような音がしそうですね」
「どういうこと?」
「どんな音がすると思います」
「トンチンカン、トンチンカン…」
「そらみなさい」
「あまりにひどい!」
リスからのあまりの言われようにデニスはしくしくと泣き出した。
「僕には家が必要なんだ。しかし君が言うように僕は確かに馬鹿なんだ。長年良い物件を見つけられずに彷徨ってきた。やっと見つけた家なんだ」
リスはデニスに同情し始めた。
デニスは一見立派な成人男性である。
カールした金髪を短髪にまとめ、背は高く肩幅は広く屈強な肉体を持っている。
しかしその装いはどうだ。
ボタンが全て取れ、くすんだワイシャツには袖さえもない。
下半身は膝から下を破かれたような派手な花柄の粗末な短パンを履いており、こちらもひどくくすんでいる。
靴は履いておらず、右足首に昆布のようなものが巻きついていた。
リスはデニスの今までの苦労が窺い知れたようだった。
「言い過ぎましたね、すみません」
リスは素直に謝った。
「この家は譲れません。ですが、物件を探すお手伝いをいたしましょう」
「なんだって!君は何てリスなんだ!」
デニスは感激して右足首から巻かれていた昆布のようなものを取りリスに差し出した。
「お礼にこれをあげるよ」
「それは何なのですか」
「非常食だよ。昆布さ」
「いりません」
かくしてデニスとリスの物件探しが始まったのであった。
「こちらに物件情報が載っている雑誌がありますから」
リスは木の根本に付いている取手を引っ張った。
そこは引き出し状になっており、何冊かの雑誌や文房具などがしまわれていた。
リスはそこから一冊の雑誌を取り出してデニスに手渡した。
「最後の数ページをご覧なさい」
デニスがページをめくると、表紙はファッション誌のようであったが、確かに後半の数ページには物件情報が載っているらしかった。
「これはいい!」
「気に入った物件はありましたか」
「そうだな。僕の条件に合いそうなのは、ここしかないな」
デニスは紙面の下部を指差すと、リスは驚愕の声を上げた。
「タバスコ付き物件ですって!」
「タバスコとは何なんだい」
「タバスコはイカの仲間でとっても危険なのですよ。そんな所おやめなさい」
「そうなのかい。しかし僕にはここしか残されていないよ。だって僕はデニスだもの」
何のことかと不思議に思い、リスが紙面を覗くと、どの物件にも『デニスお断り』の文字がずらりと並んでいた。
デニス可物件は確かにそこしかないようだった。
「これでは仕方がありませんね」
「下見にもついて来てくれるかい」
「ここまで来たなら最後まで面倒みますよ」
リスとデニスは下見へと旅立つことにした。
「あの矢印のような塔の方角だろうか」
「そうですね、早速出発しましょう」
リスとデニスが目標の塔に向かって歩いて行くと、唐突に海岸が現れた。
「海を渡る必要があります」
「なんということだ!僕は濡れたくない」
「泳いで行くつもりですか。馬鹿ですね。徒歩で渡れますよ。馬鹿ですね。」
「あまりにひど…」
「あちらからです早くいらっしゃい」
リスとデニスは橋を歩いて海を渡った。
海を渡ってすぐに目的の物件があった。
砂浜に6畳ほど畳が敷き詰められており、右側にだけ壁があった。
そして部屋の中央より少し右にずれたあたりにボロネーゼが置いてある。
「こんなに少量とはさぞ寂しかっただろうね。可哀想に」
リスとデニスは畳の上に横に並んで座り、仲良くボロネーゼを食べた。
食べ終えて寛いでいると、地響きを立てて壁からタバスコが染み出してきた。
染み出たタバスコは徐々に大きなイカの形になり、リスとデニスに襲いかかってきた。
リスは振り下ろされたタバスコの触手をかわすとデニスの頭に乗り上げた。
デニスは一目散に走った。
「どこへやったどこへやった」
「突然何なのです、無礼者ですね」
「おれのボロネーゼをどこへやった」
タバスコはそう呟きながら追いかけてくる。
「君のボロネーゼだったのかい」
「どこへやったどこへやった」
「可哀想だから食べてしまったよ」
「たべもののうらみはこわいうらみはこわい」
「すみませんでした、誰かのものだったとは思わなかったのです」
「こわいこわいこわい」
「謝ります。数日いただければ代りのボロネーゼをご用意いたしましょう」
「こわいこわいこわいこわい」
「どうやら話の通じる状態ではないようです」
「こまったなあ」
走っていると目の前に沢山の家が見えて来た。
「見なさい、住宅街です。あの角を曲がってすぐの家に逃げ込みましょう」
「わかった」
デニスは角を曲がって1番目の家に飛び込んだ。
リスとデニスが家の影から様子を伺うと、タバスコが通りを走り去っていくのが見えた。
どうやら危機は脱したようだ。
「あそこに自転車が捨ててあるよ」
デニスは道端に自転車が倒れているのを見つけた。
「これで逃げよう」
デニスは自転車に乗って走り出した。
「お待ちなさい!」
リスは静止したが時すでに遅く、デニスが乗った自転車はガラガラとけたたましい音を立てて走り出した。
「これはハネムーン用の自転車ですよ!」
「なんだって?」
「後ろをご覧なさい!」
デニスの乗った自転車にはたくさんの紐が繋がれており、その紐の先にはいくつもの空き缶が括り付けられていた。
その音に気付いたタバスコが引き返してくる。
さらに悪いことに、空き缶の1つが木の根に絡まってしまいリスとデニスが乗る自転車を止めてしまった。
タバスコが迫って来てこう言った。
「このつみどうつぐなう」
「謝ります。ボロネーゼは弁償しましょう」
「それではだめだだめだ」
「どうすればいいんだい」
「くじをひけ、あたりがでたらゆるしてやるゆるしてやる」
タバスコは大きな水筒を懐から取り出すと、その蓋を開け、リスとデニスに差し出した。
覗き込むと、中は真っ暗でキラキラ光る小さな豆粒が無数に漂っていた。
デニスはその中の1つを摘み上げ、タバスコに見せた。
「これでどうだい」
「それはシリウス。最上級の大当たりだ」
その瞬間、タバスコはたくさんのボロネーゼになった。
やがてボロネーゼを掻き分けてボロネーゼ塗れの1人の人間が出てきた。
「呪いを解いていただきありがとうございます」
「どういうこと?」
「私はもともとしがないデニスでした。しかし前タバスコのボロネーゼを食べてしまい代わりにタバスコになってしまったのです」
「なんだって!君もデニスなのかい」
「そうです。ですからあすこに住もうとやって来たのです」
「そうだったんだね。それでは僕はまた物件を探さないといけない」
「いいえ、それには及びません。同居すれば良いのです」
「いいの?」
「ええ。私には1つの夢があります。たくさんのデニスが集う街を作りたいのです。あの場所をデニスの楽園にしましょう」
「いいね」
リスとデニスはにっこり笑ってこう言った。
「デニスに祝福あれ!」
そして、微睡から目を覚ました。
第八夜
タイヤが荒野を走っている。
タイヤの真ん中は空洞ではなく、きちんとホイールが詰まっている。
タイヤは一輪のタイヤだけで調子良く進んでいる。
スピードに乗ってゴツゴツとした地面を物ともせず進んでいる。
タイヤの周りにはどこからか音楽がかかっていた。
それに乗ってまたどこからか歌声も聞こえる。
『おーかいかい
さんかいにかい
ゆめでみたくに
おどろくかい
いちはやにはや
ごはやはてんき
てんきがよいときみなさんまい』
小気味の良いテンポの曲だ。
タイヤは気持ち良さそうに走っている。
それに釣られて何処からかカナリアがやって来た。
なんて素敵なタイヤなの!あなたは何処から来たのかしら?わたしとお友達にならない?
そう言いながらしきりに美しい黄色い羽をアピールした。
そうしているとまた何処からかトビウオがやって来てこう言った。
これはこれは!なんて素晴らしいタイヤなんだ!今何をしているんだい?僕と一緒に泳ごうよ!
そしてその美しい鱗を見せびらかした。
2人でやんやと言っていると、また何処からかチョコチップクッキーが転がってきた。
なんとまあ強そうなタイヤだろうか!これから何処へ行くんだ?俺と一戦交えてみないか?
そうして3人はタイヤにについてまわった。
わたしの黄色い羽とタイヤの黒いボディ、お似合いだと思わない?
カナリアが言うと、
そんなものより僕の光る鱗の方が似合っているさ!
トビウオはこう言う。
また、チョコチップクッキーは、
そんなことより俺とタイヤは似ていると思わないか?こいつと渡り合えるのは俺だけだね!
と言った。
3人は皆自分がタイヤに相応しいと言って譲らない。
これでは埒が明かない。誰が一番か、競争して決めようじゃないか。
とチョコチップクッキーが言うと、
賛成よ!わたしは歌が得意なの。歌声では誰にも負けないわ!
とカナリアが言い、
僕も賛成だ!競争と言ったら水泳だよ。水泳なら負ける気がしないね!
とトビウオが言って、
何を言うか。俺は転がる速さで勝負するんだ!それなら負けなしだ。
とまたチョコチップクッキーが言った。
3人はいがみ合ってにらみ合った。
しかしその内、
皆それぞれの競技で争っても決着が付かないじゃないか。
とトビウオが困った声を上げた。
すると、
じゃあタイヤに聞いてみたらどうかしら。
とカナリアが提案した。
そうだ、本人に決めてもらうのが一番だ。
チョコチップクッキーも賛同する。
そこでトビウオは
君は一体誰に決めるんだい?
とタイヤに聞いた。
タイヤは相変わらず黙って走り続けている。
あなたは一体どうしたいのかしら?
とカナリアが問うても、
お前は一体何を考えているんだ?答えたまえ!
とチョコチップクッキーが声を荒げても黙ったままだ。
いくら3人が話しかけてもタイヤは全く気にする様子がない。
やあ見てくれ、こいつは俺たちにてんで興味がないようだ。何とけしからん奴だ!
チョコチップクッキーは憤慨した。
そんならわたしたちがしてきた事は実に無駄じゃないかしら!
カナリアは嘆いた。
なんだって!君は我々にどう賠償してくれるんだい?
トビウオはタイヤに賠償を請求した。
賠償ですって!そうね、そうだわ、賠償してくれなくっちゃ全く割りに合わないわ。
カナリアもタイヤに賠償を請求した。
チョコチップクッキーは
確かに、これは責任問題だぞ、君!
などと言い、タイヤの責任を追及した。
そうやって3人は代わる代わるタイヤを責め立てた。
しかしタイヤはどこ吹く風で相変わらず黙ったまま気持ち良さそうに走っている。
3人はひとしきり喚いて疲れ果ててしまった。
こんなもの、相手にしていたって無駄よ。
もう懲り懲りだよ、何にも言わないんだから。つまらない奴さ。
うんざりした、もうお前なぞ知るものか。何処へでも行くがいい。
3人はそんな事を言いながら方々に散っていった。
そうしてまたタイヤは一輪になった。
タイヤはやはり黙ったまま、気持ち良さそうに進んで行く。
どこまでもどこまでも、そのままのテンポで進んで行く。
そして、微睡から目を覚ました。
第九夜
近所のスーパーに買い物に来ている。
夕食の買い出しである。
いつものように入口の自動ドアをくぐると、入ってすぐの所に緑色の三角錐がでかでかと鎮座していた。
大変邪魔である。
しかもこの緑色の三角錐、どこか禍禍しいオーラを放っていてとても怖い。
三角錐の周りは暗い雰囲気で、空気が重く澱んで見えた。
あまり直視したく無いが、存在感があってどうしても気になってしまう。
目の前の三角錐を避けて行く先を見ると、やはり要所に大きな緑色の三角錐が置いてあり、進むのが困難そうであった。
どうしようか迷っていると、道の脇に立っている店員らしき人物を見つけた。
緑色のエプロンを付けた、激しいパーマの男性であった。
「店員さん、すみません。三角錐が邪魔で怖くて買い物が出来ません。どかしてくれませんか」
すると店員と思われた人物はこう言った。
「わたし案内人。快適に通るにはサンバイザ必要」
店員の中でも案内人であったらしい。
「サンバイザーですか」
「そう、これ」
そう言って案内人は自分の頭を指差した。
確かに緑色のサンバイザーを付けている。
案内人は説明を続けた。
「緑のサンバイザ、通行証代わり。これ無いと快適も無い」
そうだったのか。
言われれば、行き交う客たちは皆同じ緑のサンバイザーを付けている。
しかし残念ながら今、サンバイザーは持ち合わせていない。
これは困ったと思っていると、案内人が備え付けのサンバイザーを貸してくれると言う。
「いいんですか。助かります、ありがとうございます」
「これ案内人の役目、大丈夫」
案内人から彼と同じ緑色のサンバイザーを受け取った。
そのサンバイザーを頭に装着すると、三角錐の存在がまるで気にならなくなった。
「やあこれは面倒が少なくてすみます」
しかし道のりは遠い。
各所にある三角錐のせいでスーパーの中は様変わりしており、一体どこに何があるのか分からない。
また、三角錐が邪魔で見渡す事も出来ない。
スーパー内を全て見て回るのも大変だ。
目当ては大根と魚介類だ。
買う物が決まっているなら、案内人に大根と魚介類の場所だけ聞けば事足りそうだ。
「すみません。大根と魚介類を買いたいのですが、どこら辺にありますか」
「承知。ここから大根を通過し、魚介類に至るまでの最短距離をご案内。連れて行きます」
「いいんですか。助かります、ありがとうございます」
「これも案内人の役目、大丈夫」
案内人ついて行くと、すぐに野菜コーナーに辿り着き、大根を見つける事が出来た。
しかし大根は1本3,600円もした。
「すごく高いです。もっと安くならないのですか」
「案内人、値段決める権限ない。ただし枕投げるとセール中になる」
いつの間にか案内人は、ホテルによくあるようなスタンダードな四角い形の白い枕を手にしていた。
「これ投げる、大根倒れる、割引する」
案内人は身振り手振りを交えながら説明してくれた。
「なるほど。射的の要領ですね」
「あそこから投げる」
陳列棚から3メートルほど離れた所に赤い線が引いてあった。
そこから大根に向かって枕を投げて、当たって倒れれば割引してくれるらしい。
「チャンスは一度きりですか」
「3回まで挑戦可能」
「わかりました。チャレンジします」
「承知。三つの枕をあげます、頑張って」
赤い線まで誘導される。
到着すると、案内人から枕を一つ渡された。
「これ枕の一つ目」
「ありがとうございます」
「ちょっと待って」
案内人は交通整理を始めた。
「みなさん今からセール中、ここは通らないで」
他の客に説明し通行人を堰き止めると、こちらにゴーサインを出した。
「投げていいよ」
第1投目。
通行止めにあった客たちは、何が行われるのかと興味津々だ。
1人また1人と他の客も増えて来た。
集まったギャラリーに見守られながら、ずらりと並んだ大根に向かって、枕を思いっきり投げ込んだ。
枕は大きな放物線…を描かず、直線的に地面に落ちた。
ギャラリーから落胆の声が上がった。
「失敗しました」
「まだ2つある大丈夫、次」
案内人が励ましつつ枕を渡してくれた。
「ありがとうございます。」
受け取ると、また赤い線から振りかぶる。
先程は枕が低すぎたのかもしれない。
そう思って、今度は高めに投げ上げた。
すると見事、一つの大根に命中し倒れた。
その瞬間、倒れた大根がぶるぶると震えだし、赤く染まって大当たりと叫んだ。
ギャラリーも沸き立ち、祝福の声が聞こえてきた。
「割引成功、良かったね」
案内人は倒れた赤い大根を拾い上げ、手渡してくれた。
「ありがとうございます!」
本当は白い大根が欲しかったが仕方ない。
赤くても大根に変わりはない。
「ちなみにおいくらになるのでしょう」
「百分の一になる」
「かなりお得ですね!」
するとそれを聞いたギャラリー、もといスーパーのお客様たちが案内人に殺到した。
みな大根を割引して欲しいのだ。
案内人は、魚介類への案内の仕事があるから、と断ろうとした。
しかし大根の割引は大事である。
魚介類コーナーの方向だけ教えてもらい、案内人を解放することにした。
「ありがとうございました」
「よい買い物を楽しんで」
案内人と別れると、早速教えてもらった魚介類コーナーの方向へ向かった。
魚介類コーナーにたどり着くと、いけすの蓋を懸命に押さえている長髪の男性が目についた。
緑色のエプロンを付けているので店員だろうか。
「どうしたのですか」
「中の魚介類が暴れているんです。鍵をかけたいのですが、押さえながらかけれずに困っています」
「それは大変ですね。お手伝いしましょうか」
「いいんですか。助かります、ありがとうございます」
「ここを押さえていれば良いですか」
「はい。それでお願いします」
押さえていると、長髪の男性はエプロンのポケットから素早く鍵を取り出し、これまた素早く蓋に鍵をかけた。
するとその瞬間、店内のどこかでパキパキパキパキと何かが大量に割れるような音がした。
音がした方を振り向くと、長髪の男性がこう言った。
「ものさしが割れたようですね」
なぜものさしが割れたのだろう。
疑問に思ったので聞いてみると、
「私はなまくらなのです。なまくらが鍵をかけるとものさしが割れます」
と言う。
なぜなまくらが鍵をかけるとものさしが割れるのだろう。
これも疑問だったので聞いてみると、
「原因はこの緑の三角錐です。これはタンジェントだから仕方がない事なんです」
と言った。
「そうでしたか」
よく分からなかったが、そういうものなのだろうと疑問の言葉を飲み込んだ。
そして、微睡から目を覚ました。
第十夜
友人と2人でフードフェスティバルに来ている。
街中の大きな広場で開催されている。
普段は公園として利用されている場所だ。
広場は端から端までたくさんの屋台がぐるりと並び、真ん中あたりには飲食する場も設けられている。
飲食の場には4人がけくらいのパラソル付きテーブルが所狭しと並んでいる。
フェスティバルは大盛況で、かなりの人でごった返していた。
広場に入ると、スタッフからパンフレットを手渡された。
それを見てみると、さまざまな店が出店しているようだ。
ぱっと見ただけでも、ステーキ、サンドイッチ、ハム、唐揚げ、ラーメンなど多岐にわたる。
デザートや食べ歩きできるようなものの出店もある。
「何食べる?」
「とりあえず小腹が空いたから、軽い物食べながら見て周ろうよ」
食べ歩きをしながら見物することになった。
となるとまず、入り口近くの簡単な食べ物を選びたい。
「このアイスクリーム屋さん、気になる」
パンフレットを指差した。
カラフルなアイスクリームが並んでいるお店だ。
「へー、可愛い!焼き芋もあるみたい。そこにしよう」
向かうと屋台にはすこし行列が出来ていた。
なかなかの人気店のようだ。
メニューを改めて見ると、かわいいアイスクリームが何種類も並んでいた。
ボーダーやチェック、花柄など柄物が主で、中には風景などがプリントされたものもあった。
「可愛いね。どれにしよう」
「私はこの、きらびやかなさつまいもにする」
友人は焼き芋欄のきらびやかなさつまいもに決めたようだ。
焼き芋の皮が紫色のスパンコールになっており、きらきらと輝いている。
「いいね!じゃあ私は、この空の絵のやつにしよう」
私は青い空と白い雲が描かれたソフトクリームに決めた。
「いいね、お茶とセットなんだ」
「そう、お茶はマリンブルーみたい」
「可愛いね!」
「さつまいもにはセット無いの?」
「あるよ、これ。内部調査が付いてくるみたい」
「内部調査?」
「うん。分かんないけど、会社の不正とかを暴いてくれるのかな」
「ふーん、そんなのあるんだ」
話しながら列で待っていると、突然並んでいる屋台から怒号が聞こえて来た。
屋台の店主と店員が喧嘩を始めたようだ。
2人とも随分と興奮していて、胸ぐらを掴み合ってお互いを激しく揺さぶっていた。
揉み合いながら少しづつ広場の中心に移動している。
広場の中心部には直径3メートルほどの丸く芝生が生えているスペースがあった。
そこに到着すると、店主と店員は本格的に格闘を始めた。
殴り合い、交わし合い、掴み合い、蹴り合っている。
まるでカンフー映画でも見ているような見事な立ち回りであった。
周りで見ていた人たちも、やれ右だ左だ今だやれと、白熱して応援し出した。
しばらくすると、店主のハイキックが店員の顎に決まった。
店員は一回転した後崩れ落ち、うつ伏せに倒れた。
辛くも店主が勝利を納めたようだ。
「まだまだ修行が足りないようだな」
店主が息を整えながら、店員に手を差し伸べた。
「次こそは勝ってみせます」
店員はその手を取り、2人は仲直りの印に抱き合った。
観客からも声援が送られる。
そしてその結果、私たちにはバナナが配布された。
お騒がせしたお詫びだという。
それから店員と店主は仲良くお店を再開し、ようやく私たちの番が来た。
「この空の模様のやつをください」
「かしこまりました」
頼んだアイスクリームのセットはものの数秒で出来上がった。
お茶は平ための湯飲みに入っており、白い陶磁器に透明な深いマリンブルーの色合いがとても綺麗だった。
湯飲みの中に海があるようだった。
アイスクリームもメニューで見た通り、目が覚めるような清々しい青い空と白い雲が描かれていた。
私は右手にアイスクリーム、左手にお茶を持って友人の注文を待った。
「きらびやかなさつまいもをください」
「かしこまりました。内部調査はどのようにされますか」
「うーん?では職場の内部調査をお願いします」
「かしこまりました」
店員がレジのボタンを押すと、友人の目の前にホログラムのような状態で会社の姿が映し出された。
「早速、潜入調査員を派遣いたしました」
潜入調査員が今から出社するようだ。
目線は先入調査員を後ろから見た構図になっている。
肩に付くくらいの黒髪の女性で、スーツを着ている。
友人の勤める会社の中に潜入調査員が入っていった。
入り口のゲートを独自のIDカードをかざして難なく突破し、階段を上がって友人がいつも仕事をしている2階のとある部屋の前にたどり着いた。
この間に、私は待ちきれずアイスクリームを一口齧った。
スーッと鼻に抜けるミントのような爽やかな清涼感とほのかな甘みが口を幸せにした。
そして潜入調査員はその部屋にもIDカードをかざしてドアを開く。
すると友人の上司である係長が、心ここにあらずといった表情で1人たたずんでいた。
「係長、おはようございます」
潜入調査員が挨拶をするが、係長は答えない。
「係長、どうかしましたか」
潜入調査員が呼びかけると、係長の眼が鋭く釣り上がり、憤怒の表情に変化した。
「お主、分かっておるぞ。私を謀ろうとは笑止千万!ものども、であえであえ!」
係長が叫ぶと、突如、時代劇のような様相でスーツ姿の部下たちが颯爽と横から現れた。
「やっておしまいなさい!」
係長の号令で部下たちは一斉に潜入調査員に飛びかかった。
しかし潜入調査員はものともしない。
部下たちをちぎっては投げ、ちぎっては投げし少しずつ係長に近づいていく。
そして遂に係長を引き倒した。
係長を後ろ手に捻り上げると、潜入調査員は胸元から何かを取り出し上に掲げた。
「恐れをなすが良い、これを見よ!」
潜入調査員が掲げていたのは、空の模様の食べかけのアイスクリームであった。
あっと思って見ると、私の手元からいつの間にかアイスクリームが消えていた。
「私のアイスクリーム!」
思わず大声を上げた瞬間、ホログラムは消えてしまった。
「続きは職場でご確認ください」
店員は友人にきらびやかなさつまいもを手渡した。
「じゃ行こっか」
友人が歩き出そうとしたので、私は慌てて引き留めた。
「待って!私のアイスクリームが、潜入調査員に取られちゃって…」
そう言うと、友人は不思議そうな顔をしてこう言った。
「手に持ってるじゃない」
はっとして見ると、確かに私の右手には空模様のアイスクリームがあった。
しかし齧った痕が無かった。
「これ、本当に私のアイスクリームかなあ」
「そりゃそうでしょ、自分で手に持ってるんだから」
確かにそうだが、私のアイスクリームは一口齧ったはずなのだ。
未だに完璧な状態を保つそれを、再び齧ってみた。
やはり先ほどと同じように、ミントの香りとほのかな甘みが口の中に広がった。
そして、微睡から目を覚ました。
あとがき
いかがでしたか。
夢のような幻想感を味わっていただけたでしょうか。
夢の中みたいな話が目標なので、様々な種類のパズルピースを思いつくままに嵌め込んだような、荒唐無稽な話であることを心がけて書いています。
それでも今回の話の中には、上手くまとまって終わっちゃったな、ちゃんとした話になってしまったな、と感じたものもありました。
しかし読み返してみると、全くちゃんとしていなかったので安心しました。
しかしまだまだです、
さらなる夢感を目指して頑張りたいです。
今回は夢に見がちな状況も思い出しつつ書きました。
追いかけられたり、身体が思うように動かなかったりするのは夢あるあるですね。
身近な人物や、よく訪れる場所、よくする行動パターンが登場したり、最近気になっている人、事、物などが登場したりもしますね。
かと思えば、大して興味を持っていない、今まで思ってもみなかった事を夢に見ることもあります。
夢って不思議で興味深いですね。
ところで、第八夜にタイヤの話を書きましたが、たまに移動するのが面倒くさ過ぎて転がっていきたい時がありますよね。
でも人間って縦長ですし、前転や後転は何かイメージと違うし労力がいりますし、横に転がるのも辛いです。
デコボコしています、人間って意外と。
タイヤみたいにゴロゴロ~っと気持ちよく転がってみたいものです。
タイヤがとても転がりやすいのは、そのために作られているからですね。
人間も、タイヤのように転がりたい…と思い続けて子孫を残し続けたら、いつしかタイヤのような形態になるのでしょうか。
しかし別にタイヤになりたいわけでは無いのです。
人間の感情って不思議で興味深いですね。
だから夢もそうなのでしょうか。
それでは、今日も良い夢を見られますように。
また来てくださいね。
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それでは最後までご覧いただき、ありがとうございました!


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